コレオグラファーズセッション

プロジェクト ─2021

TITLE
コレオグラファーズセッション

コレオグラファーズセッション

国内外で活躍する第一線の振付家・ダンサー3名が滞在し、それぞれがそれぞれに振付、短いダンス作品を製作します。異なる振付家の振り付け手法を体験するという経験から生まれる化学反応を探るDANCE LAB.プログラム。ここでしか出会うことができない身体と身体、創造性と創造性の化学反応が生まれる場にぜひお立ちあいください。

AREA
盛岡市|もりおかAIR
ARTIST
黒田育世
黒田育世
BATIK主宰 振付家・ダンサー。6歳よりクラシックバレエを始め、97年渡英、コンテンポラリーダンスを学ぶ。02年BATIKを設立。
バレエテクニックを基礎に、身体を極限まで追いつめる過激でダイナミックな振付は、踊りが持つ本来的な衝動と結びつき、ジャンルを超えて支持されている。
03年トヨタコレオグラフィーアワード 「次代を担う振付家賞」「オーディエンス賞」、04年「朝日舞台芸術賞」06年「舞踊批評家協会賞」、10年「第4回日本ダンスフォーラム賞」、15年「第9回日本ダンスフォーラム賞」を受賞。
BATIKでの活動に加え、金森穣率いるNoism05、飴屋法水、古川日出男、笠井叡、野田秀樹、串田和美など様々なアーティストとのクリエーションも多い。
ARTIST
東野祥子
東野祥子
振付家・ダンサー。2015年より多彩なアーティストらと総合舞台芸術を創造する「ANTIBODIES Collective」を率い、国内外の劇場やフェスティバルなどで舞台演出等を手がける。身体性を駆使した作品づくりから、インスタレーション、衣装製作など活動は多岐に渡る。
またダンサー育成WSや学校・福祉施設へのアウトリーチ等も行う。’00 ~’14年「Dance Company BABY-Q」を主宰。
トヨタコレオグラフィーアワード、横浜ダンスコレクションソロ・デュオ〈Competition〉など受賞。
全日本ダンストラック協会会長。メディアサイト「ANTi-V」を立ち上げ、映像コンテンツを配信。
ARTIST
鈴木ユキオ
鈴木ユキオ
YUKIO SUZUKI projects 代表・振付家・ダンサー。
世界40都市を超える地域で活動を展開し、しなやかで繊細に、空間からはみだすような強靭な身体・ダンスは、多くの観客を魅了している。
モデル、音楽家との共同制作、子供や障害のある方へのワークショップなど、活動は多岐に渡る。 2008年トヨタコレオグラフィーアワード「次代を担う振付家賞」等受賞多数。
滞在期間
11月28日(日)〜12月6日(月)
内容
「振付家が振付家に振付をする」をコンセプトとした滞在製作
主催
公益社団法人日本芸能実演家団体協議会 アーツライブいわて実行委員会 NPO法人いわてアートサポートセンター
パートナー
風のスタジオ

滞在地域

盛岡市ー肴町界隈ー

詳細は下記

北上川、中津川、雫石川の三川が合流点に発達した城下町、盛岡市(岩手県県庁所在地)。中心市街地には歴史的な建造物や、今も利用される湧き水などが数多くある。春には巨大な岩から咲く石割り桜、夏には世界一の和太鼓数を誇るさんさ踊り、秋には鮭が川を上り、冬には500羽を越える白鳥が訪れる。伝統的な南部鉄器、紫根染などの工芸のほか、宮沢賢治や石川啄木など文学者が青春時代を過ごした街として、美しい自然と芳醇な文化と歴史が交差する都市。

盛岡市ー肴町界隈ー

イベント

EVENT1

TITLE
コレオグラファーズ・セッション

コレオグラファーズ・セッション

チラシを見る

第一線を走り続ける振付家3人がひとつの場所に会して、互いに互いを振り付ける。
振付家だけの実験場。
ここでしか出会うことができない身体と身体、創造性と創造性の化学反応が生まれる場にぜひお越し下さい。

日時
2021年12月5日(日)14時00分開演 ※開場は30分前
会場
風のスタジオ
振付・出演
黒田育世、鈴木ユキオ、東野祥子
料金
一般2000円、学生1500円(各当日券500円増)
AIR/AIRセット券* 一般3000円 学生*2000円(11/14のクラブナイトとセット券)
*学生セット券はオンライン予約のみでの取扱になります。
*フェザンでの窓口販売のみAIR/AIRセット券の取扱はありませんので、ご注意ください。
窓口販売
風のスタジオ、プラザおでって、カワトク、フェザン(AIR/AIRセット券取扱無)、もりおか町家物語館、cyg art gallery
オンライン予約
ご予約こちらから
お問合せ
NPO法人いわてアートサポートセンター TEL.019‐656‐8145(平日9:00~18:00)
アクセス
風のスタジオ 岩手県盛岡市肴町4-20永卯ビル3F
【バス】盛岡バスセタンー前下車、徒歩3分
【電車】JR 盛岡駅から徒歩25分、タクシーで10分
【車】駐車場なし。近隣の有料駐車場をご利用ください。
マップ
主催・共催等
文化庁大規模かつ質の高い文化芸術活動を核としたアートキャラバン事業「JAPAN LIVE YELL project」

主催:公益社団法人日本芸能実演家団体協議会、アーツライブいわて実行委員会、NPO法人いわてアートサポートセンター
共催:盛岡市
後援:岩手県 岩手県文化振興事業団 岩手県芸術文化協会 岩手日報社 朝日新聞社盛岡総局 読売新聞盛岡支局 毎日新聞盛岡支局 産経新聞盛岡支局 河北新報社 盛岡タイムス社 岩手日日新聞社 NHK盛岡放送局 IBC岩手放送 テレビ岩手 めんこいテレビ 岩手朝日テレビ エフエム岩手
企画・製作:NPO法人いわてアートサポートセンター
新型コロナウイルス感染症拡大防止対策について
①37.5度以上の発熱、咳やのどの痛み、強い倦怠感などの症状がある方のご来場はお控えください。ご来場の際にはマスクを着用し、公演中もはずすことの無いようにお願いいたします。 ②客席は、舞台からの距離を確保し、客席数を制限しております。 ③空調設備を適切に稼働させ、必要に応じて扉を開放するなど、十分な換気を行います。 ④お花やプレゼント・差し入れはお断りしております。 ⑤チケット販売の際にお伺いした個人情報は当日の受付のほか、新型コロナウイルス感染者が発生した場合にのみ保健所等の公的機関へ提供することがありますのでご了承ください。

映像

「コレオグラファーズセッション」ダイジェスト映像

1.きちんと立ってまっすぐ歩きたいと思っている

振付 | 黒田育世
出演 | 鈴木ユキオ、東野祥子

「コレオグラファーズセッション」ダイジェスト映像

2.基本的情念

振付 | 東野祥子
出演 | 鈴木ユキオ、黒田育世

「コレオグラファーズセッション」ダイジェスト映像

3.ある風景ー「刻の花」抜粋ー

振付 | 鈴木ユキオ
出演 | 黒田育世、東野祥子

インタビュー

『三陸DANCE借景』鈴木ユキオ・東野祥子 インタビュー

アーツライブいわて2022「コレオグラファーズ・セッション」の前身企画となった「三陸DANCE借景」*。本記事は、コレオグラファーズ・セッションに出演する鈴木ユキオ、東野祥子の「三陸DANCE借景」製作インタビューを掲載します。三陸の自然を全身で感じた2人のダンサーが、踊ること、振り付けること、それを映像作品にすることで、どんな景色を生み出そうとしたのか。三陸について、踊りについてなど伺いました。

*三陸DANCE借景
宮古市の浄土ヶ浜をはじめ沿岸や大船渡市の夏虫山など三陸沿岸の景勝地を借景とした、岩手の民俗芸能とコンテンポラリーダンスの映像作品。文化庁令和2年度戦略的芸術文化創造推進事業「JAPAN LIVE YELL project」アーツライブいわて2020にて製作。

鈴木ユキオ ひかりにふれる、海をみる

東野祥子 /HEAVEN/

全6作品の映像はこちらから

聞き手:坂田雄平 文:河野桃子

下見──三陸の景色をめぐって

────ダンス創作の下見では、岩手県の宮古市や大船渡市を訪れました。どんなことを感じましたか?

東野「私は震災直後に2回、ボランティアで宮古に伺ったんです。自分に何ができるのかわからなかったけれど、少しでも身体がほぐれたりメンテナンスしてもらえたらなと、飛び込みで避難所になっていた体育館を訪ねてストレッチをしました。ステージの上で「みなさーん!一緒にやりましょう!」と声をかけるのですが、なかなか参加してもらえない。仕切られたダンボールのスペースの中でやってくれる方達もいたけど、全員で手を繋ぐのは難しかった。まだみなさんの気持ちが開けていないのかな、と感じました。

 今回、10年ぶりに東北を訪れて「当時のことを覚えているんだなぁ」と実感しました。当時は、浜通りにたくさんの瓦礫があって、車が積み重なっていて……その光景が蘇ってきて「復興したんだな」とすごく嬉しくもなりました。浄土ヶ浜に行く途中の道、鍬ヶ崎の墓地のちょっと下あたりに仏壇や位牌が集められていたことも思い出されて、なんともいえない気持ちになりました。今は巨大な防波堤が建って、海も全然見えない。でも、忘れているようで、記憶ってずっと残っているんですね」

────浄土ヶ浜や三王岩、夏虫山も下見しましたね。

東野「最高でした!浄土ヶ浜はやっぱり名前の通り、あの世とこの世の間みたい。だから『/HEAVEN/』というタイトルなんです。浄土ヶ浜は、現世と来世の間のような場所に送り出して、ここ(現世)に帰ってくる……そんな行き来ができる場所のように感じました。白くてとても綺麗ですから。対して、三王岩は黒くてゴツゴツして、三人の王様みたいな岩がある。その2ヶ所の対比が面白くて、ダンスのなかに取り入れました」

────鈴木さんは土地を巡ってみていかがでしたか?

鈴木「僕は今回、初めてこちらに来ました。震災のことは気になっていたのですが、自分が具体的に活動するかどうかは迷っていました。というのは、震災後にたくさんのアーティストが東北に行きましたが、僕は「それってどうなんだろう。今、自分がいる場所で活動することが大事なんじゃないか」という思いがあったからです。でも数年後、NYに半年間滞在する機会があって、そこでは当たり前のように東北に足を運ぶアーティストがいました。さらにはチェルノブイリ原発事故について書かれた本を読んだのですが、その時に、愛を感じたんですよね。大きな災害が起きた時って、愛に溢れることもあるし、汚い部分が見えることもある。逃げる人だけ逃げて、稼ぐ人は稼いで……そういうふうに顕著に人間性が出る。そう気づいた時に「日本に帰ってこの本を作品にしよう」と決めました。そしてできた『堆積』という作品では、時間などが積み重なっていくさまを描きました。自分にとっての考えを表せる作品です。

 けれど東北に対しては、いつかは自分の活動として向き合いたいなと思っていました。だから今回のお話をいただいた時はすごく嬉しくて。10年経って復興している所もあるし、もちろん忘れてしまうこともある。とくに東京にいると、多くの人が忘れかけている気がするんですよ。自分自身もそう。けれども僕や東野さんといった外部の人間が東北に入ることで、僕達のまわりの人々も再び東北に注目してくれる。「こんなことをしているんだ」「彼らもこんなふうに頑張ってるんだ」「こんな素敵な場所なんだ」「自分も行きたいな」と、再び思いを馳せてもらえる機会をつくれたらすごく嬉しいなと思って「ぜひやりたい!」と参加しました」

創作──ダンスであり、映像作品であること

──どのように作品を作っていかれましたか?

鈴木「まず下見の時に、震災時の町の状況を教えていただいた印象が強く残っていたので、町中で映像を撮ろうと考えていました。でもやっぱり海岸や、現在の町の状況も入れたくなっていきました。ダンスは僕が演出しつつも、映像作品としては撮影・監督の(鈴木)竜一朗さんにすべてお任せしたのが良かったです」

東野「私もそう。映像と舞台の演出はちょっと違うからね。あとで編集もできちゃうし(笑)」

鈴木「そうなんですよね。監督とは思いやイメージだけはなんとなく共有して、あとはお任せ。竜一朗さんに「僕の作品はのイメージが強いんです」と伝えたら「僕もそんな感覚でした」と言ってくれたし、タイトルを考える時も2人とも近いワードが出てきたのも良かった。撮影中は竜一朗さんが「こういうふうにして」と言うことに僕が素直に従って、でも踊りに関しては任せていただきました。音楽はなにか地元の音がいいなと思って、三陸で伝統芸能を習っていたミュージシャンの佐藤公哉さんにお願いし、送ってくれた音源を聞きながら踊って作品をつくっていきました。最終的にはものすごくパワーアップしましたね」

東野「冒頭の曲がすごく力強いですよね」

鈴木「僕もあの曲にはびっくりしました!」

────佐藤公哉さんは2020年の三陸国際芸術祭で、三陸の伝統芸能を習っていました。本当なら芸術祭で発表する予定だったんですが、コロナで中止になってしまって……だから鈴木さんが「一緒にやりたい」と言ってくださって良かった。

鈴木「誰とやるかの影響は大きくいですね。僕は今回、監督の竜一朗さんと初めてご一緒したことで、創作が進むうちに関係性が構築されていくことがすごく面白かった。セッションしている感覚でした。お互いのイメージを共有していくと、あ、わかる」と思う瞬間があって、映像の画面を通して繋がっていく。 そういう積み重ねがどんどん楽しくなって、お互いを信頼しあっていった」

東野「信頼が大事だよね。委ねられるようになっていないとね」

鈴木「不信感があると、自分で頑張ってコントロールしようと力が入っちゃうから」

東野「そうそう。監督と「今のどうだった?」と話しながらもお任せするのがいい

────監督とダンサーの間で事前に振付を決めているわけではない?

東野「ざっくりとだけ話しています。たとえば「何かを避けるような動きをする」「払いのけるように動く」「見えないものを掴む」といった動きや、「ここには移動しない」みたいなこと、ほかニュアンスとかシーンの意味は共有していますね」

鈴木「細かいことは決めないですね」

東野「その場でうまれることに影響されますしね。でも、岩場で足の裏が痛いとか、風が冷たいといったことは監督にも見せないです(笑)。どんなに冷たくても余裕。めちゃくちゃ痛いけど全然平気。そんな顔をして踊れるのがプロだと思うんですよ」

踊る──タイプの違うダンサーの、踊りについての共通点

────野外で踊る時には、どのように自然と向き合っているんでしょう?

東野「地面がガタガタの凶器みたいな場所もあるから、やっぱり体幹が鍛えられていないと無理ですよね(笑)」

鈴木「慣れはありますね」

東野「あります。リノリウムの床がどれだけありがたいか再確認しますね(笑)。でも、自然の中で踊るのも好き。風や光に影響をうけて、時間が経つと景色が違って見えたり、立ち位置が変わると背景もまったく変わる。センスが問われるけど、自由だし、いろんな刺激をもらえます」

鈴木「瞬発的な動きがうまれたりしますよね」

東野「そうそう。劇場で踊る時は音楽をかけることが多いけど、自然の中にいると自然の音しかない。波がザザザザ……と引いたり、風がヒュウ~と吹いたりする音でリズムや間をつかむのは難しいんです。けれど踊っていると解放されていく感覚があって、夕日の大きさや満点の星空に感動しながら身体が動いていく。2019年に瀬戸内の犬島で踊った時に、最後のシーンで、お客さんの向こう側のものすごく大きな満月が見えたんですよ。感動して、泣きそうになったのを覚えています。そういう瞬間が、計算せずにふっと訪れるのが自然の面白さですね」

鈴木「ロケーションによって感覚がすごく引っ張られますよね」

東野「研ぎ澄まされるんですよね 」

────今回のダンスは劇場で決まった振付を踊るのとは違いますが、身体はどういう状態なんですか? 

東野「難しいな……言葉にできないから踊っている気がする。もともと自分は振付を踊ることに興味が持てないんですよ。ふだんのトレーニングで、身体のメンテナンス、基礎練習、バーレッスン、エクササイズはちゃんとやるんだけれど、踊る時は身体を動きを決めない方がいい。その時の状況や、精神状態や、エネルギーの変換のようなものが伝わるといいのかな。踊る時には、コンセプトや、作品の伝えたいことや、シーンのイメージや、ダンサーのキャラクターといったいろんな要素をすべて自分でコントロールする状況をつくって、バンと投げ出す。そこでいったいどんなことが起るのかが刺激的なんですよね。そういうことを何度も繰り返していくうちに「ここはこうしよう」としっくりくるポイントが見えてきて『振り』になっていく。そうして「これだ!」というものをぐっと掴めたら、シーンができあがっていく。そうやってできたものを、最終的に自分を介して外に出していくのが『私なりの踊り』なのかもしれません。どこかでスイッチをオンにして踊っている自分と、それを客観的に見ているもうひとりの自分がいる」

鈴木「それはよくわかります」

東野「やっぱり「踊っている自分を客観視している」という精神状態が必然な気がしています。踊っている時に視野が狭くなると駄目で、「いま自分の腕がどこにいるのか」といった自分の身体のをわかっている状態が、ダンスしてる自分かな」

鈴木「まったく同じです。でも僕達って、真逆ですよね? 登山にたとえると、僕と東野さんはまったく反対側から同じ山を登っているイメージです。東野さんはまずダンスを習われていたけれど、僕は24歳でダンスを習ったことがない状態からスタートしていていたので、最初は視野が狭い状態でしか踊れなかった。コントロールもできないし、記憶もない。ゾーンにすぐ入ってそのまま踊っているんですよね。ずっとスイッチオンの状態です。でもそれでは限界があることに気づいた」

東野「そうですね。自分の身体を客観的にわかってないと、人に見せられるものにはならない」

鈴木「その段階までいくのがすごく大変でした。ずっと自分の癖をブラッシュアップしていくんだけど、まず自分の癖がわからない。そしてわかってきた時には自分の癖がすごく邪魔なの!」

東野「そうなの!癖をとっぱらいたくなるんだよね!」

鈴木「そう。しかも癖をとろうと頑張ると、頭が冷静になってつまらないダンスになっちゃう。冷静な頭と、ゾーンに入った身体をずっと行き来しながらバランスを探っていくのがものすごく大変でした。でも、ダンスを習っていたという東野さんの側から山を登り始めても、みんなが頂上までたどり着けるわけじゃないですよね。ダンスを習うことで山の6~7合目までは登れるけど、その先が大変」

東野「そう、そこからが登れない!すでに型ができて上手になりすぎてしまって、どうしてもスイッチをオンにできないんですよ」

鈴木「難しいね。人によって登れるタイミングも違うし。でも登っていけば、どこから登り始めたとしても辿り着く場所はそんなに変わらない気がするんですよ。山の麓にいるままでは、自分と全然違うダンスを馬鹿にしたりする人も多いんですよね」

東野「わかる!踊る人ほどダンスの好き嫌いって激しいよね」

鈴木「もちろん好みはあるけどね。でもそれぞれ「あんなのダンスじゃないよ」と言い合っていても、上の方まで登ってくるとお互いに「ああ、わかる」となっていく。山の反対側から登ってきたすごい人が僕のことを「わかる」と言ってくれるんですよ」

東野「ダンサーによって作風は100100通りだけど、結局は、同じ身体なんですよね」

作品──2人それぞれの目線を通し、三陸の風景を映像に記す

────企画タイトル『三陸DANCE借景』には、「三陸の景観がダンスの舞台である」という意味と、「ダンサーの身体や感性を通過した三陸の景色に触れる」というふたつのコンセプトがあります。10年前に来られたことがある東野さんの『/HEAVEN/』と、初めて訪れる鈴木さんの『ひかりにふれる、海をみる』。2人のフィルターの違いが見えてくるような、まったく違う映像作品ができあがりました。

鈴木「まったく違いますよね!東野さんの『/HEAVEN/』は、震災のことを思い起こします。それぞれの動きやシーンがいろんな意味に感じられましたよ」

東野「やっぱり浄土ヶ浜のイメージが、震災で亡くなった方々が行ったり来たりしているのを送り出すような感覚なんですよね。ダンスって霊的な感じがするものだし、自分にない感覚が入ってきて動かされたりもする。そのせいか、浄土ヶ浜で踊っているとエネルギーが身体の外に出て、入れ替わっていくイメージがうまれるんです」

──鎮魂の意味合いがあるんですね。芸能で用いれる装束や仮面は、神仏への祈りや鎮魂とも深く結びついています。今回のダンス作品では仮面も使っていましたが、なにか意識されていますか?

東野「憑依しているというか……悪魔に変身してしまっている状態を踊るような感じです。伝統芸能の装束との対比とまでは言いませんが、私達なりの装束を入れたかった。そのためにあえて美術の酒井貴史さんと初コラボレーションをしたんです。酒井さんは、海などで拾ってきた物や古い布で作品を作る人。すごく面白く関わってくれました」

鈴木「得体の知れない生物みたいな感じがするのに、伝統的な装束のように見えて面白かったです」

東野「やっぱり仮面をつけると憑依できる。自分じゃない何者かになる気がしますね」

────できあがった映像を見て、自分ではどう感じましたか?

東野「ダンスによる映像作品を作ったのは10年ぶりなのでちょっと恥ずかしかったけど、やっぱり舞台でのダンス公演の記録映像とは違いますね。記録なら一度見れば満足するんです。でも映像作品は、作るために編集の過程で何度も映像を見つ。だいたいは絵コンテどおりに仕上がっているんですが、最後に音楽がつくと全然違う見え方になります。あと、監督のセンスが色濃く出る。自分ではなかなかできない作品だと思います」

鈴木「僕も映像作品は10年ぶりくらいです。すごくいい刺激になりました。一方で、やっぱり、直接観るライブの良さもすごく感じましたね。直接対面している熱量は強いし、気持ちいい」

東野「全然違うよね。やっぱり唾を飛ばさないとね」

鈴木「人間って言葉だけじゃない部分でわかりあっていることがすごくある。伝統芸能でもダンスでも、映像だと表面の綺麗なところが見えるけれど、もっと近くで見たら汗をかいてハァハァ言いながらやってたりする。ライブにはその熱量があるということを、映像作品をつくることであらためて感じました」

東野「ライブの方が空気の震えが届きますよね。あと、鈴木さんの『ひかりにふれる、海をみる』はタイトルどおりに光の中に身体がしっかりと存在していました」

鈴木「まずは独特な東北の自然をおさめたかったんですが、うまく映像に映りましたね。関東や甲信とは違う空気を感じてもらって、興味がわく人がいっぱいいたらいいな。場所の力は大きいですね」

東野「でも風景だけだとしっくりこなくて、防波堤も映しました。ずっと変わっていない風景と、震災後にできた景色の対比ですね。私も鈴木さんもどちらの作品にも防波堤が登場するところは似ていますね」

鈴木「自然との対比があるんですよね」

東野「そう。あと、ドローンがどんどん空にあがって引きの映像では、真上から見られている感覚やすごく広大な風景が面白かったです。撮影の日が晴れて良かったですよ!」

鈴木「たしかに……朝早くと夕方とに踊ったかいがありましたね。最後に自分の顔がアップになるところでは、寒さで泣きそうになっている(笑)」

東野「あの顔はすごいよね(笑)」

────今回の映像作品を見ると、自然への興味と、身体性への渇望がわいてきます。映像が橋渡しになって、見た人が豊かに想像できたり、「実際に足を運んでみたいな」と思ってもらえるといいですね。

レポート

  • NPO法人いわてアートサポートセンター(AIR/AIR担当)
  • 〒020-0874 岩手県盛岡市南大通一丁目15-7 盛岡南大通ビル3階
  • TEL:019-656-8145 FAX:019-656-8146
CONTACT