映像×身体 視覚と触覚 時間と場所

プロジェクト ─2023

TITLE
映像×身体 視覚と触覚 時間と場所

映像×身体 視覚と触覚 時間と場所

デジタル化が芸術文化にも広がっている。ダンサー・振付家が都市部でデジタル化を取り入れて作り上げた鑑賞と体験の形を地方の宮古市でも模索します。

AREA
宮古市
ARTIST
中屋敷 南 Nakayashiki Minami(ダンサー・振付家)
中屋敷 南 Nakayashiki Minami(ダンサー・振付家)
ダンサー/振付家。神奈川生まれ、育ち。
中学一年で、部活動のダンスと出会う。創作ダンスの経験から始まり、現在も作品を作り続けている。人間の感情、感覚、内包された欲望の表出を、繊細で表情豊かな動き、振付で表現する。内的でありながらも、身体から剥ぎ取ることのできない社会からの影響を俯瞰し、観る側の領域へ、繊細さと暴力性を持ちながら、アイロニカルに切り込む。
ヨコハマダンスコレクション2021-Dec 奨励賞(2021)、同コンペティション最優秀新人賞(2015)、象の鼻テラス FSP2021 最優秀賞受賞(2021)。
横浜国立大学 教育人間科学部 学校教育課程 保健体育専攻 卒業
横浜国立大学大学院 都市イノベーション学府 建築都市文化専攻Y-GSC 修了
現在、同大学大学院 Y-GSC スタジオアシスタント/県内専門学校の「身体表現(保健体育)」講師としても勤務
nakayashiki-minami.com
ARTIST
中村 理 Masashi Nakamura(ダンサー・絵描き)
中村 理 Masashi Nakamura(ダンサー・絵描き)
'07年に身体表現と出会い、様々な振付家/演出家の作品に出演。'17より田畑真希主宰「タバマ企画」に参加。自作品も多数発表し、’22に自身初のソロ公演を開催。近年の主な出演作としては『導かれるように間違う』(松井周 作/近藤良平 演出)、『ALIEN MIRROR BALLISM』(岩渕貞太 振付) などがある。
©️田中洋二
絵描きとしても活動し、'23に初の個展を開催。
目に見えるもの/見えぬものの手触りや重さを手がかりに、踊る事・絵を描く事・生活する事のあわいを身体と共に行き来し続けている。
ARTIST
中瀬俊介 Shunsuke Nakase(映像)
画像がありません
映像作家/ドラマトゥルク
1983年生まれ,横浜在住。和光大学文学科在学時からライブコンサートの映像演出や,企業広告の仕事を始める。
2009年より1年間世界を回り,また2012年にも2周目となる世界一周を果たす。
2017年,Dance Company Baobabに加入。映像のみならず,ドラマトゥルクとして主宰の北尾亘とともに作品の創作に関わる。
これまでに岡本優,笠井叡,中村蓉,中屋敷 南,山田うんなどの舞台作品に映像演出で参加。
滞在期間
2023年8月24日(木)〜27日(日)、2024年2月3日(土)〜11日(日)
内容
コロナによって接種を絶たれた世界の中で必然的に立ち上がった、物理的な触れ合いのない触れ合い=ノン・コンタクトワークを基盤に、宮古市でのリサーチを通じて作品の新たなる可能性を模索、さらに作品の創作に挑戦します。
主催
特定非営利活動法人いわてアートサポートセンター
企画製作
宮古市民文化会館

滞在地域

宮古市

詳細は下記

森、川、海に囲まれた三陸海岸に面する市、宮古市。
本州最東端の地である「魹ヶ崎」を擁し、世界三大漁場・三陸沖の豊かな漁業資源や、三陸復興国立公園・浄土ヶ浜や早池峰国定公園など、自然環境を背景に漁業と観光に力を入れている。黒森神楽をはじめ、40を超える郷土芸能があるほか、縄文時代の遺跡・崎山貝塚、戊辰戦争の一つ宮古湾海戦の地など歴史が点在している街。

宮古市

イベント

EVENT1

TITLE
高校生アウトリーチ

宮古市内の高校生に向けてダンス・身体表現アウトリーチを行います。

日時
2023年8月24日(木)、25日(金)
会場
岩手県立宮古商工高等学校(商業校舎)1・2年生
新型コロナウイルス感染症拡大防止対策について
①37.5度以上の発熱、咳やのどの痛み、強い倦怠感などの症状がある方のご来場はお控えください。ご来場の際にはマスクを着用し、公演中もはずすことの無いようにお願いいたします。 ②客席は、舞台からの距離を確保し、客席数を制限しております。 ③空調設備を適切に稼働させ、必要に応じて扉を開放するなど、十分な換気を行います。 ④お花やプレゼント・差し入れはお断りしております。 ⑤チケット販売の際にお伺いした個人情報は当日の受付のほか、新型コロナウイルス感染者が発生した場合にのみ保健所等の公的機関へ提供することがありますのでご了承ください。

映像

インタビュー

レポート

レポート|中屋敷 南

今回宮古で取り組んだ作品は、これまで東京や神奈川で展開してきたものでしたが、次はどこか遠くの、異なる地と関係しながら作品を広げてみたいと考えていました。そのようなタイミングで、中瀬さんが鈴木ユキオさんのSNSをみて、私にこのレジデンスを勧めてくれたことが始まりです。
宮古で何をしたいか、具体的に絞っていく時に、それまで行ってきた人と人とのコンタクトから、人と人以外の様々なものとのコンタクトへひろげ、作品(からだ)に落とし込めないかと考えました。そこからまずは〈岩〉にふれにいくことは必須としてみました。
夏と冬、二つの季節での滞在が決まり、あれもこれもと考えているうちに、最終的には盛り沢山な成果発表になっていきました。使える施設や期間、何をしてみようかと考える時間も含め、アーティストにとっては贅沢な機会と環境でした。結果的に、応募時に思っていたよりも、発表への稽古に重きを置いた滞在になったように思います。この追い込み感が、今後の活動にも活かされそうです。
さて、宮古での制作はもちろんのこと、色々なアクティビティがどれも魅力的で、かつ、人との出会いを含めた色鮮やかな記憶として残っています。以下、いくつかのアクティビティやイベントについてのレポートです。

⚫️学ぶ防災
ガイドの鈴木さんにご案内いただきました。震災のお話の合間に、宮古の海産物のことも織り交ぜながら気さくにお話しいただき、震災の記憶と生活とが当たり前に隣り合わせにあることを、そのお話しぶりからも感じました。
田老地区の真新しい防波堤の合間を移動する車中では、津波の犠牲になった消防団の方の話を、会館の佐野さんが不意にしてくださり、心に残っています。この地に近しい方の声を聞かせていただくこと、それを聞くことの重みを感じずにはいられませんでした。
宮古での滞在が決まった時、滞在制作を行えることへの希望と同時に、震災の記憶を多分に含んだこの地へ訪れることへの、緊張感もありました。改めて、震災の記憶、傷跡にふれることで、私たちの在り方もまた変わっていきました。滞在中はその記憶に対して、何かを積極的にアプローチするでもなく、しかし忘れることもなく、そこにあるものだと常に傍に思いながら居させていただいたような感じがしています。
また、学ぶ防災ガイドののち、横山彰乃さんチームと共に、道の駅たろうにて名物のどんこの唐揚げ丼をいただいたことも、素敵な出会いの一つです。

⚫️三王岩
圧巻、でした。
イメージしていた、これぞ岩!というような、しかし、みたことのない風景が目の前に現れる。潮風が心地よく、岩の世界にお邪魔させてもらったような気持ちで、岩のエネルギーを存分に浴びました。岩の形は目に楽しく、ごろごろした岩の上を移動したり岩肌を感じたりすることはからだに楽しく、潮風が心地よく、猛暑の中ではありましたが、「ずっと居られるね・・・」と3人で話していました。岩とからだはどのように対峙できるか、感覚を研ぎ澄ませてその場所にお邪魔しました。中瀬さんは岩肌の撮影をしたり、理さんはからだだけでなく、紙と鉛筆を使って岩のスケッチをしたり。まだどのような作品にするか探っている段階で、岩の情報をどのように捉えるか、など色々と試してみていました。
成果発表内で一部引用した、宮沢賢治『楢ノ木大学士の野宿』に、岩頸(がんけい)という言葉が出てきました。賢治も奇妙な形の岩岩をみて、物語をイメージしていたのだろうかと、私たちもまた想像を巡らせました。


断崖絶壁から三王岩をのぞむ。

⚫️浄土ヶ浜、蛸の浜
三王岩への険しい道のりから一転、のんびりと過ごしました。心地よい夏の記憶として心に残っています。“さながら極楽浄土のごとし”と謳われた海岸、美しかったです。流紋岩の白い石の浜は、歩くと軽く澄んだ音を鳴らし、まるで楽器のようでした。
また、浄土ヶ浜からトンネルを通じて徒歩で行き来できる距離にある蛸の浜は、よりローカルな雰囲気で、剥き出しの黒々とした岩壁に囲まれた穏やかな入江でした。

⚫️宮古市内リサーチ、ラサの煙突を起点に
宮古市のシンボル的存在(?)ラサの煙突を色々な角度から追ってみました。
初めて宮古に降り立った時、確かに異様で不思議な存在感を放つ塔が目を引きました。
成果発表では、このラサの煙突から、宮古の物語を想像し、一つシーンをつくりました。宮沢賢治『楢ノ木大学士の野宿』作中で、主人公が夢の中で出会う雷竜(らいりゅう)という首のながい恐竜と、ラサの煙突の存在感を重ね、現代と太古を行き来し重なり合うように変容していく踊りのシーンとなりました。このシーンでは急遽、過去に何度も宮古に滞在された経験のあるBaobabの北尾亘さんに、朗読による声の出演でご協力いただきました。東京でもよく知る仲間と、宮古でも繋がるというのは、大変に胸アツなことでした。

⚫️津軽石さんさ踊り保存会の稽古場見学
会長の館下さんより、津軽石さんさ踊りのこれまでと現状をお話いただきました。伝えるための最低限の文字起こしを近年になってようやく始め、なんとかここまで残してきたのだそう。元々は文字起こしを良しとしていなかったことや、しかし先人から今の若い人へなんとか伝えていくためには文字起こしや録音が必要であったことなどの難しさをお話しいただきました。
そんなお話を伺いつつ、いざ皆さんとのご対面。私たちをどう迎え入れようかと考えていただいている感じがして、恐縮する気持ちと、ワクワクの瞬間でした。
楽器や衣装の説明をしていただいたり、ハッピを羽織らせていただいたり。結構容易い感じで太鼓も触らせていただき、おっかなびっくりしつつも、実際に触ってみると体にとてもしっくりくる。そして、じゃあやってみましょうかと、踊りそのものの説明はほとんどないままに、踊りの輪の中に入れていただく。見よう見まねでついていく。一緒に動いてみる。この体験が私にはとてもよかったです。
映像や文字によって記録をすることは、簡単にできてしまうことかもしれません。しかし、踊りを踊りのまま伝えていくこと、芸を繋いでいくことの美しさや純粋さには、からだを通してしか出会えないものがあると思いました。大切なものを改めて気がつかせていただいた、心とからだに残る体験でした。

⚫️崎山貝塚縄文の森ミュージアム
学芸員の菊池さんにご案内いただきました。縄文時代の方々が作られた土器や日用品の造形の精巧さ、当時の人たちがとても器用で、高い造形の技術があったことに驚きました。一人の女性が埋葬されたお墓からは、当時の生死感までうかがい知ることができ、遺跡から当時の生活がみえてくる、という体験と共に充実の遺跡巡りでした。
火おこし体験までやらせていただきましたが、菊池さんの火おこしの技に感服。とっても難しかったです。
ところで、いまだに、ここの敷地内にある立石の感触が、私と理さんの記憶に残っているかもしれません。(作中に何度か、私たちの手によって立石を登場させていたため。)


立石にふれてみる。

⚫️ワークショップ、アウトリーチ
前期には、高校生にアウトリーチ。後期には、大ホールで2回のワークショップを行いました。
アウトリーチでは、理さん中瀬さんと共に、触れ合うことと映像とのコラボレーションについて考えを深めつつ、高校生の皆さんに楽しさを感じてもらうにはどうしたらいいか試行錯誤した時間が、有意義なものとなりました。クラスによって様々な反応があり、とても楽しい時間でした。先生にも一緒に楽しんでいただき、その点もとてもよかったです。私たちと学校を繋いでくださった会館スタッフの皆さまにも感謝しております。
後期の滞在中には、2回のワークショップを開催しました。2回ともご参加いただいた方もいて、2度目にお会いできた時は何か心強さのようなものまで感じました。参加者のからだを通して、作品の新たな一面を見させていただいたように思います。
この作品は、実際に自分のからだを空間に置いてみることで、みえる世界への解像度や感覚を刺激するもので、お客様にどちらも体験していただきながら公演を行えたこともよかったです。

⚫️最後に。
“ふれる”ことで、宮古と出会い、そして作品をつくる、という取り組みを通して、私たちは愛について考えていたのかと思わされることがありました。
作品をみて、愛について考えていた、という感想をくださった、会館の佐野さんの言葉が印象に残っています。ふれることは、ありのままにふれて確かめること、ありのままの自分を大切にすること、大切にしていいんだ、ということを思ってくださったそうです。その言葉を聞き、自分たちのやっていることの根底にあったものに気づかせてもらった気がしました。
作品をつくっていると、正解のないことをやっているがゆえ、時々不安になる瞬間もあります。ですが、上演をみにきてくださった方、関わってくださった方からの言葉や反応によって、私たちのかたちを改めて認識できる、生かされているということを思いました。
インタビューでもお話しさせていただきましたが、このレジデンスでの全ての経験、そして出会った方々との交流が全て未来への糧となると確信しています。そして、会館の皆様との様々なやりとりは大変勉強になりました。宮古にできるだけ沢山ふれてみたい!と意気込んでいた私を、優しく朗らかに受け入れていただいた気がします。
それから、共にレジデンスに参加した中瀬さん、理さんとこの経験をシェアできている幸運にも感謝しています。
まだまだここに書ききれない素敵な出会い・出来事がたくさんありました。
ぜひまた行きたいです。

担当者コメント三王岩で中屋敷さんと中村さんがじっくりと岩に触れていたり、中瀬さんが岩を撮影されていたりする姿がとても印象的でした。優しく寄り添うように五感を使って宮古の自然にふれてくださっていると感じました。自然を身近に感じながら生活してきた身として、改めて宮古の自然に意識しながらふれようとするきっかけとなった滞在でした。後期滞在で 2回開催したワークショップでは、両日とも参加した方々の年齢や性別を意識させない一つの温かい空間が生まれ、人 が心や動き、表情を通して、自分自身や相手にふれることができたような素敵な時間でしたアウトリーチ、ワークショップ、公演を体験/鑑賞された方々に、ふれる時間を御三方と共に提供させて頂けたことをとても光栄に思います。本当にありがとうございました。

佐野

  • NPO法人いわてアートサポートセンター(AIR/AIR担当)
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