三陸のひと・芸能・風土と出会うアーティスト・イン・レジデンス

プロジェクト ─2023

TITLE
三陸のひと・芸能・風土と出会うアーティスト・イン・レジデンス

三陸のひと・芸能・風土と出会うアーティスト・イン・レジデンス

アーティストが三陸沿岸地域に滞在し、郷土芸能や歴史文化・観光資源など地域の魅力を学びつつ、自身の創作活動を行い、その成果を滞在地域等で発表します。

AREA
田野畑村
ARTIST
佐藤公哉(音楽家・作曲家・歌手)
佐藤公哉(音楽家・作曲家・歌手)
北海道生まれ。シュルレアリスムの影響から幼少より画家を志し、後に音楽へ転向。多彩な声の表現に加え、ビオラ等の弦楽器、各種の打楽器、稀に鍵盤楽器も奏し演奏活動を国内外で行う。越境的な室内楽を得意とし、映画音楽、舞台音楽、即興パフォーマンス、地域に密着したプロジェクトも手がける。ソロの他、バンド「表現(Hyogen)」、デュオ「3日満月」などで活動し、プロジェクト「Torus Vil.」を主催。東京藝術大学音楽環境創造科在学中より東京都を拠点に活動し、2017年より長野県松本市を拠点に活動中。
滞在期間
2023 年11 月30 日(木)~4 日(月)、 2024 年2 月10 日(土)~12 日(月・祝)
内容
田野畑村の大宮神楽を習ったり、地域のリサーチをしたりしながら、自身の創作活動を行い、作品を発表します。
主催
岩手県沿岸広域振興局
共催
田野畑村

滞在地域

田野畑村

詳細は下記

田野畑村は、三陸復興国立公園内に位置し、高さ200mもの断崖が屏風のように連なる「鵜の巣断崖」は、小説家・吉村昭氏が太宰治賞を受賞した作品『星への旅』の舞台としても知られる名勝。南方の宮古市から田野畑村にかけて見られる1億1千万年前の地層は圧巻の迫力、まさにジオパークそのもの。村に継承されるのは神楽と鹿踊。山伏神楽に由来する「大宮神楽」は、羅賀地区の大宮神社にて奉納舞を行う。村内巡業も継承し、人々の健康や厄払い、新築時の柱固めなど、日々の生業に欠かせない心のよりどころ。また、鎌倉時代初期に畠山一族が伝えたと言われる「菅窪(すげのくぼ)鹿踊」は、本物の鹿に見立てた鹿頭をかぶる珍しい鹿踊りで、全国に2ヶ所だけしかない貴重な踊り。

田野畑村

イベント

EVENT1

TITLE
佐藤公哉ミニライブwith大宮神楽

佐藤公哉ミニライブwith大宮神楽

チラシを見る

この冬、田野畑村に滞在した音楽家佐藤公哉が、田野畑村の歴史文化を学び、大宮神楽を習い、創り上げた新たな作品を披露。躍動感あふれる大宮神楽の公演とともにお楽しみください。

日時
2024 年2 月12 日( 月・祝)
開場12:30 開演13:00
会場
羅賀地区コミュニティセンター
出演
佐藤公哉、大宮神楽保存会
入場料
無料(予約不要)
マップ
アクセス
【車をご利用の方】
盛岡より約3時間
宮古より約40分
三陸道「田野畑中央IC」より約20分
駐車場あり
【公共交通機関を利用の方】
三陸鉄道リアス線「田野畑駅」より徒歩7分

三陸鉄道時刻表

お問合せ

NPO 法人いわてアートサポートセンター

(〒020-0874 岩手県盛岡市南大通1丁目15-7 盛岡南大通ビル3 階)
TEL:019-656-8145 FAX:019-656-8146 MAIL:info@iwate-arts.jp
新型コロナウイルス感染症拡大防止対策について
①37.5度以上の発熱、咳やのどの痛み、強い倦怠感などの症状がある方のご来場はお控えください。ご来場の際にはマスクを着用し、公演中もはずすことの無いようにお願いいたします。 ②客席は、舞台からの距離を確保し、客席数を制限しております。 ③空調設備を適切に稼働させ、必要に応じて扉を開放するなど、十分な換気を行います。 ④お花やプレゼント・差し入れはお断りしております。 ⑤チケット販売の際にお伺いした個人情報は当日の受付のほか、新型コロナウイルス感染者が発生した場合にのみ保健所等の公的機関へ提供することがありますのでご了承ください。

映像

三陸のひと・芸能・風土と出会うアーティスト・イン・レジデンス
(三陸の芸能を生かした地域活性化事業)

発表:2024年2月12日(月・祝)
会場:羅賀地区コミュニティセンター(岩手県田野畑村)

インタビュー

レポート

レポート|佐藤公哉

佐藤公哉

日本各地で郷土芸能や伝承歌を取材し、そこから創作を行う活動を始めて数年が経ちました。
自身が拠点としている長野県でも稽古・取材を行っていますが、三陸の郷土芸能との関わりは僕の創作にとってとても大きなウェイトを占めています。
この度、新たにスタートした岩手県事業のアーティスト・イン・レジデンスにお声がけいただき、田野畑村の「大宮神楽」さんにお世話になりながら、新たな創作に取り組むという光栄な機会をいただきました。

稽古・取材のための滞在は2023年11月30日から12月4日。
初日は田野畑村に到着後、村の教育委員会へご挨拶に。そして稽古させていただく大宮神楽の地元・羅賀地区へ向かいました。
保存会の下坂会長にご挨拶したのち、レジデンス事業担当の岡田さんと共に大宮神楽を奉納している「大宮神社」にお参りに行きました。

 

大宮神社は急斜面の上、海を見下ろす高台に立っており、地震・津波の際の避難場所としても知られています。東日本大震災の時には、大宮神社のすぐ下にお住まいの下坂会長も、この神社に避難して津波から逃れていたとのことでした。
夕方に大宮神楽の稽古場・伝承館に向かい、代表の工藤さんを始めとする保存会の皆さんにご挨拶しました。
工藤さんはとても熱意のある方と伺っていた通り、短い滞在の中で僕が大宮神楽を吸収するのにどういったやり方が良いか非常に真剣に考えてくださっていました。
神楽の演目を色々と観せていただきつつ、まずは大宮神楽の稽古をする人が最初に習う演目「榊葉」の舞の稽古から入ること、僕が専門としている太鼓と歌についてもまず「榊葉」教えていただき、その他の演目もかいつまんで教えていただく、という方針が定まりました。
「榊葉」や他の演目でも登場する基本ステップ「抜き足」を早速教えていただき、初日が終わりました。

翌日はサッパ船ツアーで沿岸を案内していただいたり、みちのくトレイルコースやジオパーク、山地酪農など田野畑村の様々なスポットを巡って行きました。
神楽の稽古だけではなく、こういった経験の中で田野畑村を知っていくことも、その後の創作に影響を与えてくれます。洞窟の海の青さは本当に美しかったです。

夕方からはいよいよ「大宮神楽」の演目鑑賞と稽古。演目鑑賞では「榊葉」のほか、「天女」、子供たちが踊る「綾遊び」などを観せていただきました。
「榊葉」の舞の稽古では、工藤さんが「ダコスコダンスコスコ…」など、太鼓の手を口唱歌で唱えるのに合わせて踊ります。今回は僕の創作に活かすために太鼓や歌も教えていただきましたが、工藤さんは師匠から太鼓を教わったことはなく、本来は師匠の口唱歌が完全に体に染み込むまで舞を稽古することによって太鼓を覚え、自然と叩けるようになるそうです。

12月2日。この日もまずは田野畑村の民族資料館で「三閉伊一揆」を中心とした歴史資料を案内していただきました。
午後からは再び、演目鑑賞と稽古。大宮神楽は演目の数も多く、舞や太鼓もなどの技も高度なためとても短い期間で学べるものではありませんが、口唱歌を聴きながら舞の稽古をし、さらに実際に太鼓も叩かせていただくことで、そのグルーヴ感がだんだんと体に染み込んで来ます。
「榊葉」以外にも、「松迎」という演目で印象的だった太鼓と歌の部分も教えていただきました。
そして夜は三陸の新鮮な海の幸がいただける「北川食堂」にて歓迎会を開いていただき、お腹いっぱいご馳走になってしまいました。今回は東京滞在からの流れで田野畑村入りしたため、珍しい東京の地酒をお土産にしましたが、そちらも喜んでいただけて嬉しかったです。
12月3日。今回の滞在で大宮神楽を習うことの出来る最後の日です。
稽古してきた「榊葉」は、太鼓の口唱歌をメモさせていただき、それを楽譜替りに見ながら舞と一緒に叩かせていただきました。本来は太鼓と歌を担当するのは「胴取」と呼ばれる演目のリーダー。保存会のメンバーでも中々機会がないはずの役目を体験させていただき本当にありがたいです。

演目鑑賞ではコメディ劇の「篠田の森」や、神社で奉納する際の「権現舞」なども観せていただきました。
また演目がまとめられた資料やお面の数々を見せていただくなど、大変充実した時間を過ごすことができました。

帰路に着く最終日となる12月4日は、発表公演の会場候補でもあった「思惟創館」にて、クリエイションの時間を持ちました。

先ずは創作の取っ掛かりとして、大宮神楽の「松迎」「榊葉」に登場する歌の旋律に和声をつけてみます。今回はソロで初めてのスタイルでの発表公演を予定していることもあり、太鼓のリズム、和声、歌を一人で生演奏するためのシミュレーションも行なっていきます。
4泊5日の田野畑村滞在はあっという間に過ぎて行きました。
帰宅後は2月の発表公演に向け、自宅の客間を実験室として、太鼓、サンプリングパッド、歌を同時に演奏するソロのスタイルでの作曲とリハーサルを進めていきました。

サンプリングパッドも新たに購入し、全く新しいスタイルへの挑戦です。大宮神楽のグルーヴ感をできるだけ踏襲しながら、電子音楽・ポピュラー音楽・ダンスミュージックなどの要素も取り入れ、「KAGURA BEATS」を模索していきます。
そしていよいよ2月のイベント。会場は、稽古していた伝承館のすぐお隣、羅賀地区コミュニティーセンターです。前日にセッティングされた幕をバックに、先ずは大宮神楽の「清祓」の上演。勇ましい一人舞で、場を清める意味合いで演じられます。今回は素晴らしい逸材の高校生の舞手が舞いました。

僕はこの日のミニライブでは3曲を演奏しました。
まずはメインで稽古させて頂いた「榊葉」の歌と太鼓をモチーフとした楽曲。今回の演奏は、作曲した楽曲に使う和声や効果音を主にシンセサイザーで演奏し録音。その音をサンプリングパッドに読み込ませた上で太鼓と同時に演奏し、歌を歌うというスタイルで臨みました。
歌の旋律や歌詞は大宮神楽の演目のものをほぼそのまま残し、太鼓のリズムは特に印象的なフレーズを組みあわせて展開させていきました。

2曲目には、僕が郷土芸能や伝承歌の取材に力を入れ始めるきっかけとなった、新潟県十日町市の祝い歌「天神ばやし」を演奏。そして3曲目には、大宮神楽の「松迎え」の歌や太鼓を土台とした楽曲を演奏しました。この曲では、工藤さんに鉦で加わっていただき、そして「清祓」を踊ってくれた関口さんが(着替えのため幕の後ろから)笛の演奏で参加してくださいました。
神楽の三拍子である太鼓、鉦、笛が揃ったことによって、今回のスタイルも一つの完成を見たような気がしました。工藤さん、関口さんとのリハーサルは前日に一回しただけでしたが、「元はいつもやっている神楽だから」とすぐに対応してくださり、コラボレーションが実現しました。今回一番嬉しかったことです。

その後はトークセッション、そして再び大宮神楽の演目「榊葉」と、とても盛り沢山の会となりました。村内外、県外からいらした方もおり、盛会に終えることが出来ました。
オリジナルの「榊葉」とそれを元にしたクリエイションを両方鑑賞できたということも、この企画の非常に面白いところだったと思います。

日本の郷土芸能には独自のグルーヴを持つものが多くありますが、大宮神楽さんの舞と囃子は高度に洗練され非常に魅力的です。音楽家としても無限の可能性を感じるものでした。今回のアーティスト・イン・レジデンスでは、僕が目指す風土や身体性と密接に結びついた新たなポピュラーミュージックの創発に、またとない大きなヒントをいただくことができました。
大宮神楽保存会の下坂会長も次回を熱望してくださり大変嬉しい限りですが、ぜひこのご縁を大切に、田野畑の地での稽古、クリエイション、公演を続けて行けたらと思っています。

<担当者コメント>

田野畑村で初となるアーティスト・イン・レジデンスを行いました。芸能団体としても「神楽を教える」という初挑戦に戸惑いながらも、地域リサーチを含めとても協力していただいたことに感謝いたします。
8日間という短い滞在でしたが、作品発表会では「神楽×エレクトロ」という、新しく貴重な作品が誕生しました。観客の皆さんはもとより、大宮神楽保存会の皆さんが自分たちの神楽から生み出された音楽を聴き、驚きと喜びに満ちた表情がとても印象的でした。
そして、公哉さんと大宮神楽保存会の双方から、これからを見据えた構想が多く出たことが何にも代え難い大きな成果(何よりの収穫)だと感じています。今回にとどまらず、この滞在から生まれた作品が、今後も国内外に届き、田野畑村と大宮神楽の魅力はもちろんのこと、アーティスト・イン・レジデンスの可能性を広げてくれることを望んでいます。

三陸国際芸術推進委員会事務局 岡田

  • NPO法人いわてアートサポートセンター(AIR/AIR担当)
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