楽器をもって宮古をきく
プロジェクト ─2024
- TITLE
- 楽器をもって宮古をきく
"きこえてくるもの"に耳をすませ、ともに演奏します。
- AREA
- 宮古市
- ARTIST
- 野木 青依 Aoi Nogi( マリンバ奏者/アーティスト)
-
- 11歳からマリンバ演奏を始める。桐朋学園大学音楽学部卒業後、2018年8月メルボルンにて第5回全豪マリンバコンクール第3位と新曲課題における最優秀演奏賞受賞。マリンバと街を歩く「マリンバ・ネリネリ」シリーズ、お店や個人宅にマリンバと滞在する「マリンバさんのお引越し」、服を楽譜として読み解く「ファッションを演奏する」、さんぽチームとして「すみだのかたち」等を発表。きくために演奏し、音にきいてもらえるよう演奏する。
- 滞在時期
- 5月22日〜25日、9月20日〜29日
- 内容
- 楽器を手に、宮古を散策。"きこえてくるもの"に耳をすませ、ともに演奏します。
- 主催
- 特定非営利活動法人いわてアートサポートセンター
- 企画製作
- 宮古市民文化会館
- 助成
- 文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業(地域の中核劇場・音楽堂等活性化事業))|独立行政法人日本芸術文化振興会
滞在地域
宮古市
森、川、海に囲まれた三陸海岸に面する市、宮古市。
本州最東端の地である「魹ヶ崎」を擁し、世界三大漁場・三陸沖の豊かな漁業資源や、三陸復興国立公園・浄土ヶ浜や早池峰国定公園など、自然環境を背景に漁業と観光に力を入れている。黒森神楽をはじめ、30を超える郷土芸能があるほか、縄文時代の遺跡・崎山貝塚、戊辰戦争の一つ宮古湾海戦の地など歴史が点在している街。

イベント
EVENT1
- TITLE

その場の音を聴いてマリンバによる即興演奏を行います。
出会いによって変化する演奏会です。
- 日時
- 2024年9月21日(土) 10:30~11:30
- 会場
- イーストピアみやこ
- 参加情報
- 無料、未就学児入場可
EVENT2
- TITLE

その場の音を聴いてマリンバによる即興演奏を行います。
出会いによって変化する演奏会です。
- 日時
- 2024年9月22日(日) 18:00~19:00
- 会場
- 縄文の森ミュージアム
- 参加情報
- 無料、未就学児入場可
EVENT3
- TITLE
- 小中学校アウトリーチ
宮古市内の小中学生を対象にしたアウトリーチを行います。
- 日時
- 2024年9月24日(火)
- 会場
- 宮古市立川井小学校・川井中学校
EVENT4
- TITLE
- 高校アウトリーチ
宮古市内の高校吹奏楽部員を対象にしたアウトリーチを行います。
- 日時
- 2024年9月26日(木)
- 会場
- 岩手県立宮古高等学校
EVENT5
- TITLE
- 野木青依のおしゃべりマリンバコンサート

宮古にマリンバがやってきます!
マリンバはアフリカ発祥の大きな木琴。木のあたたかな音色が聴く人の身体にも響くような、たいへん心地よい楽器です。
市民文化会館にマリンバがやってくるのは久しぶりのこと!マリンバ奏者・野木青依によるマリンバの成り立ちがわかるお話と、生演奏をお楽しみください。また、ご希望の方はマリンバ演奏体験も可能です!マレットというバチを持てば、マリンバとの距離がグッと近づきますよ。
- 日時
- 2024年9月29日(日)15:00開演 *30分前開場
- 会場
- 料金
- 500円
- お問合せ
- 宮古市民文化会館
〒027-0023 岩手県宮古市磯鶏沖2-22
TEL:0193-63-2511 FAX:0193-64-5445
iwate-arts-miyako.jp
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映像
インタビュー
レポート
レポート|野木青依
閉伊川に視覚を絡ませながら106号線を来ました。流れているものを見ると「音楽だ…」と、心を寄せてしまいます。閉伊川は音楽の師匠です。
音楽が流れるところの時間感覚は不思議で、伸びたり縮んだりします。それも、クラシック音楽(西洋発祥の記譜法で書かれた楽譜がもとにある音楽)の演奏と即興演奏、それぞれ違う時間感覚があるように感じます。クラシック音楽の演奏には過去も未来もありますが、即興演奏は「いま!」の連続なのです。
「いま!」の連続の時間が始まると、大人は困ってしまいます。見通しが立たず、「終わり方が分からない」。宮古で即興演奏の体験をして頂いた時にも、困惑される方が多くいらっしゃいました。 よくわかります。私の弟が小さい頃、深夜に折り紙で遊びはじめて…永遠に紙を折り続ける弟を眺めながら「いつ終わるんだろう…」とゾッとしたことをよく覚えています。
演奏に限らずの話ですが、終わることより始めることに注目したい、と思いました。 尊敬するアーティストの先輩が「アーティストは勇気!」と、扉を開けるジェスチャーをしていました。 終わりがわからないことを始める、ということは心底ゾッとすることです。が、でも「勇気!」で扉を開けて、何かを始めること…例えば人と出会ってお喋りすることを諦めずにいたいと思っています。(そういえば、私のばあちゃんの口癖は「始まれば終わる」でした)
本日は「野木青依のおしゃべりマリンバコンサート」にお集まりくださり、そして私やマリンバと出会ってくださり、本当にありがとうございます。ぜひ一緒にマリンバの音色を楽しみましょう! 最後に、このコンサートは会館スタッフの皆さん、カメラマンさん(とご家族)、宮古の音楽家の皆さん(今はいない方々も含まれています)、宮古の街で出会った皆さんとの沢山のお喋りをもとに作られました。
深く深く、お礼を申し上げます。ありがとうございました。
この文章は、三陸AIR/AIR滞在成果発表「野木青依のおしゃべりマリンバコンサート」当日パンフレットに寄せたものです。滞在期間の14日、宮古の方と沢山のお喋りをしました。その中で、太字で聞こえてくるような…太字で見えるような、そんな言葉に出会う瞬間が多々あり、その言葉を楽譜のように(あるいは戯曲のように、指示書のように、、)受けとって、集めて、立ち上げたのが「野木青依のおしゃべりマリンバコンサート」、3時間半の会でした。
大学を卒業した2017年の春から数年前まで、私は基本的に、1人で演奏活動することを選んできました。1人で企画して、1人で準備して、1人で演奏する。パートナーや幼馴染に助けてもらいながら。自分が既存の集団から追い出されること、それよりも、自分が人に甘えて大変な迷惑をかけること、それを後から自覚した時の、あの全身が燃えるような恥ずかしさを極端に恐れて、そうなる未来を回避しながらでないと外出すら難しかった、「終わり」ばかり考えている演奏家でした。
「それでも人と出会い、始めなければ」と思えるようになった数年前、三陸AIR/AIRを知り、応募しました。「いい演奏」を求めていた子どもの頃の、好奇心や勇気や図太さと再会するような感覚がありました。
1回目のアウトリーチ、イーストピアでの演奏会の直前、ずっと付いてくださっていた担当スタッフさんに「緊張しないんですか〜?」と訊かれ、思わず「死ぬほど緊張してます…」と答えてしまいました。「えっ!全然みえない!」と驚かれ、もしかして、私は緊張や怖れを”他者全員”に見せてはいけないと思い込んでいるのかもしれない(それが”プロの演奏家”っぽいから…?)、と気づいて「緊張しすぎて、怖すぎて、来る新幹線の中でずっと泣いてました…」と吐露し、2人で笑いました。それから私はスタッフの皆さんに少し甘えられるようになって、リラックスして宮古に居られるようになりました。
複数人で顔を合わせて、一緒に車に乗って移動してご飯を食べて、本番の準備をして開演して片付けて、感想を言い合うということを、何日も何回も経験できたこと。それは物凄く貴重で大変で重要なことだったと感じています。これはレジデンスならではのことで、この枠組みをくださった宮古の皆さん、ずっとお付き合いくださった担当スタッフさん、会館職員の皆さん、滞在の様子を撮影してくださったカメラマンさんに大変感謝しています。皆さんのお陰で、私は「集まる」にチャレンジできるようになりました。マリンバと外に出るだけではなく、会館で演奏会をひらくことも可能になったのは、宮古での14日間の成果です。
ここからは、滞在中の話を。 成果発表の日は9月29日と決まっているけれど、その日に私は何をするのか…ようやく見えたのは、25日の寝る直前、ベットの中でした。それまでは「不安だなあ」と感じつつも、1人で、思いつきで歩いたり立ち止まったりする身体を守っていたように思います。その身体での出来事を(崎山貝塚で拾った縄文土器のように)断片的に残したいと思います。

◆◆◆
図書館で、昔、鍬ヶ崎仲町で法華太鼓を打ち鳴らしながら告発を叫んだ女がいた、という話を読み、その女の名前が頭から離れなくなってしまいました。
鍬ヶ崎に着くと、曇りの空に鳥がぐるぐる飛んでいて、しっとりと雨が。金比羅神社を目指しますが、見つかりません。筆塚はあるから、この辺りのはず…木々の中をうろうろしながら、背中の辺りがゾッとしてきました。金比羅神社は諦めて、あらぬ道からどうにか下山すると、ちょうどそこに居た赤い帽子のコープのお兄さんを驚かせてしまいました。 「喫茶ずぎのび」に入って鍬ヶ崎ブレンドとわらび餅に癒されたところで、お店のお二人に「金比羅さんは、もう管理できないーってなって、戻したって聞いたよ」と教えて頂きました。帰り際、「傘持ってます?」と、黒の折り畳み傘を、「いやもっと綺麗なのが…」と、緑の長傘を出してくださいました。「でも私、東京に戻っちゃうんです…!」「いいから、いいから!」文化会館で保管します、と感謝を伝えて、切通し公園の方へ歩きます。
「野木さ〜〜〜ん!」と声がして振り返ると、走って近づいて来られる、ずぎのびのお一人。「これからまた市役所の方まで歩いて行くって、やっぱり大変だから!車で送るから乗って〜!」ええーっ!どうしてこんなにお優しいのでしょうか…。それから私のiPhoneケースには、喫茶ずぎのびのカードがいつでも見えるように入っています。
◇◇◇
大通りをぶらぶら歩いていると、「KLUB COUNTER ACTION 宮古」からベースの音が聴こえてきました。しばらく聴いていると、音の主が現れ、お店の中を見せてもらえることに。長い立ち話をして、バスで磯鶏へ。
◆◆◆
見学のお願いをしている、宮古高校吹奏楽部の定期演奏会リハーサルの時間までまだ余裕があり、文化会館の周りをぶらぶら歩いていると、突然、目の前に機関車が。思わず立ち止まります。惹きつけられたまま、公園のベンチに腰掛けました。

機関車を眺めながらファル(近くのスーパー)の揚げ餅を食べていると、「お食事中ごめんなさいね」と、日焼け対策バッチリな服装の女性に声をかけられました。その方が憂う、暮らしや政治や宗教のお話を最後まで聞くと、「それじゃあね」と、住宅街へ戻られていきました。揚げ餅の続きを食べながら、機関車を眺めます。そろそろリハーサルの時間。
1曲目の演奏が始まった瞬間、私はボロボロ泣いてしまいました。音楽室の穴だらけの壁、体育館の緑の床、先生の譜面台、指揮棒のコルク、楽譜棚、メトロノーム置き場、友達のジャージ。私の吹奏楽にまつわる記憶の風景が一気に吹き上がり、その曲、「アルセナール」のスネアドラムの楽譜、それを練習する自分、その窓の向こうのサッカー部のビブスの蛍光色まで見えて、あまりの懐かしさに混乱してしまいました。
「アルセナール」は吹奏楽部の定期演奏会、1曲目に演奏されることが多いと思います。他にも二部はポップステージになることなど、吹奏楽部の演奏会にはいくつかの「型」があって、それらが醸しだす「吹奏楽部の演奏会」を興味深く見学しました。司会役の生徒さんが「…申し遅れましたが、司会を務めますのは…」と自己紹介をした時は、確かに「司会は名前を申し遅れる」という型もある!と気づいて、愉快に思いました。

◇◇◇
末広町で川を眺めていると、「なんだろ」とおばあさまに声をかけられました。「小さい魚がいっぱい」。しばらく一緒に眺めました。
◆◆◆
中央通り商店街のスイングベンチでゆらゆら。お気に入りの、うみどり公園横の大きな歩道橋へ。車の流れや橋を眺めます。公園へ降りると、遊具の一つに大きな鉄琴を発見!「出会ってしまったね…」と気持ち悪く呟き、演奏。マレットが重くてよく響きます。そのあと鐘を鳴らしたら、近くに居た小さな子どもさんに「ウルセ!」と言われ、うーんいいなあ、と味わいました。

◇◇◇
いざ岩手へ…上野駅、新幹線改札前の不自然な人だかりを確認しつつ通過。新幹線ホームへ降りようとすると、ホームからは人がどんどん登ってきます。あら…?ようやく、アナウンスがはっきり聞こえました。「東北新幹線は運転を見合わせております」。仙台ー古川間を走行中だった新幹線の連結部分が外れるトラブルで、運転再開の目処はたっていない、と。岩手入りは翌日に変更し、みはしのあんみつを食べて、帰宅しました。
◆◆◆
休日。DORAへ遊びにいくことに。宿から30分ほど歩いて向かいます。道中、リラパークこなりで「みやこわが町」を、かんの書店本店で「みやこまちクロニクル 震災・日常編」を購入。宮古一中には大きな垂れ幕で、生徒さんがサクソフォーンコンクールでグランプリ受賞との文字!おお…!と小山田橋を渡ると、DORAが見えてきました。その外観の圧倒的かわいさに驚愕して、しばらく写真撮影。北川食堂でカレーを食べて、地物「しょっこ刺身用お造り」398円を購入。帰りの小山田橋は日が落ちる頃。車のハンドルのような形の地面が金色に照らされているのをじっくり眺めて、宿へ戻りました。
しょっこを食べたあと、「みやこまちクロニクル」を読んでいるとDORAが登場して、「知ってる!」と、嬉しくなりました。

◇◇◇
夜ご飯に迷ったので、ゲストハウス3710へ。コーヒーを飲みながら、店主お勧めのご飯屋さんを列挙いただいていると、ドアが開き、市民劇のメンバーが。「外から見た時、かっこいい男の人がいると思って、一回通り過ぎちゃった」。光栄です。その方は「カフェ&レストラン えきばしゃ」が好きで、よく行くとのこと。
えきばしゃは、テーブルとテーブルの間に壁があり、静かで、薄暗くて、温かい空間。美味しいスープパスタに癒されて、肌寒い夜道、sakusakuオリジナル「みやこタオル」を首に巻いて帰りました。
◆◆◆
大ホールで練習。贅沢。文化会館にいる日は、昼食もおやつもファルに買いに行きます。ファルは結構な音量でノリノリミュージックが流れていて、大好きです。道路沿いの倉庫前でも漏れ聴こえるノリノリを楽しむことができますし、駐車場側のトイレなんて個室で大音量でノリノリ。1番のダンススポットです。
◇◇◇
「ブルボン」でパンを買う。すべすべで、小麦粉の優しい甘い香り。ブルボンのあんぱんは、中身がずっしりぎっしり入っていて、これ以上のあんぱんは無い、と思わされます。
◆◆◆
演奏会は集会だから、宮古で、マリンバと野木青依が、どのような客席をつくれるのか、つくるべきなのかを考えて、挑戦してきました。演奏会当日の朝、八戸の友人から「行っちゃおうかな」とLINE。本当に現れて、嬉しい数年ぶりの再会。また、開場中に「青依ちゃん、わかる〜?」と現れたのは、地元(仙台)の幼稚園の先生。「SNSで知って、宮古なら行ける〜!と思って」。宮古の皆さまも、1人、また1人、次々と会場に現れます。
会のために、人は移動します。その心の凄まじさに、ずっと、圧倒され続けています。お集まりくださった皆さん、本当にありがとうございました。これからもよい演奏、よい会をつくることを諦めずに、マリンバと共に現れ続けたいと思っています。

マリンバ奏者
野木青依
担当者コメント
野木青依さんは、2024年5月と9月に合計14日間宮古市に滞在されました。
アウトリーチの「マリンバ・ネリネリinみやこ」では、即興セッションやマリンバ体験の時間が設けられ、いつまでも楽しげにマリンバと触れ合う子どもたちの姿が印象に残っています。成果公演では、第1部と第2部と雰囲気をがらりと変え、音の響きや聴こえ方の違いをお楽みいただきました。マリンバの音色の美しさはもちろん、柔らかに語る野木さんの「おしゃべり」に、ご来場の皆さんには穏やかで豊かな時間をお過ごしいただけたことと思います。終演後には、名残惜しそうにマリンバの解体を見届ける方も多くいらっしゃいました。 公演後に、「一瞬手放したことを、もう一度始めたことで成長できた」と語ってくださった野木さん。宮古でのレジデンスがそのきっかけになれたことを嬉しく思います。 再び野木さんとマリンバとともに、まちを巡る日を楽しみにしています。
宮古市民文化会館
吉田